4. オバアとオバア。

オバアが駅の階段から落ちそうになっていた。

オバアがなぜ落ちそうになったかというと、オバアの後ろにいたオバアが突然オバアにぶつかってきたからだ。

オバアはたたらを踏んで耐えたものの、そのまま下まで転げ落ちても何らおかしくはなかった。

踏みとどまったオバアは後ろを振り向き、オバアをキッと睨みつけ「ちょっとぉー危ないでしょうよぉーう!」と叫んだ。

だがオバアはオバアの存在などまるで意に介さず、スッとオバアを避けて早足で階段を降りてしまった。

オバアは去りゆくオバアの背中に向かって何やら呪詛の言葉をブツブツとつぶやきながら、自身も階段を降りていった。

オバアの後ろからオバアがぶつかり、それが原因でオバアが階段を落ちかけた。これは事実。

階段を降りていたオバアが突然立ち止まり、オバアが避けきれずにオバアにぶつかった。これが真実。

だってわたしは見ていたから。
あれは無理だ。避けきれない。あのオバアの急ブレーキにはオバアに限らず誰も反応できない。唯一反応できる可能性があるとすれば、それは井上尚弥選手くらいだろう。それか竈門。あとはネコ。野良の。飼いネコはダメだ。日夜寝転がってちゅ〜るをねぶりまくっている野生を忘れた猫畜生では話にならない。

もしオバアがオバアとの距離を充分に確保していれば、或いはオバアにぶつからずに済んだのかもしれない。

謝罪もなしに去っていったオバアの態度にも問題がないとは言えないが、そもそもオバアが急に立ち止まったりしなけれは、オバアがオバアにぶつかる事もなかったはずだ。

一体どちらに非があるのか。オバアか。それともオバアか。これは議論の分かれるところかもしれない。

だが誰が何と言おうと、これだけは炎上覚悟で明言したい。

たしは圧倒的にオバア擁護派だ。

3. Yahoo知恵袋とゴリーモ

仕事中。EXCELの機能で分からない事があったのでネットで検索したら、トップにYahoo知恵袋がヒットした。

Q「Excelで○○って出来ますか?」
A「出来ないんじゃないスかぁ?」
Q「ありがとうございました(ベストアンサー)」

スかぁじゃないんだよこの野郎。忙しいさなかにキーボードを叩いたのは、お前の毒にも薬にもならない感想を聞くためじゃないぞ。何でこれがベストアンサーなんだ。ぜんぜん納得できない。

軽くムカついたので『Yahoo知恵袋 信用できない』で検索した。
すると「人を信用できないって、そんなに悲しいことなんですか?』みたいなYahoo知恵袋の質問がトップに表示された。

とんだ勘違い野郎だなお前は。そういう事じゃないんだ。お前だよYahoo知恵袋。人じゃなくてお前が信用できないんだよ。何が知恵袋だ玉袋みてえな顔しやがって。

とは言っても、Yahoo知恵袋に回答するのは人だから、結局は信用できないのは人という事になるのかもしれない。

「出来ないんじゃないスかぁ?」という、自分から猛アピールで手を挙げておいて感想を言うその姿勢に、わたしはイモの事を思い出した。

イモというのは、ある男子中学生の事だ。
話は10年前に遡る。わたしは、とある地方の私立中学校で数学の教師をしていた。

当時のわたしは髪が短かった。スポーツ刈り? 甘い。五厘だ。五厘刈りの坊主頭でムキムキだったから、生徒たちに付けられたあだ名が『ゴリ』だった。

話は変わって、クラスに井元(イモト)という男子生徒がいた。
井元もわたしに負けず劣らず短い坊主頭だった。しかし井元は頭のカタチが悪かったので、みんなから『イモ』というあだ名で呼ばれていた。

わたしが授業で「この問題解ける人ー」と聞く。するとそのイモが、どんなに難しい問題でも必ず「ハイハイハーイ!」と猛アピールで手を挙げてくる。
だから当てる。じゃあイモ答えなさいと。そうするとイモは勢いよく立って、ものすごく均整のとれた敬礼のカタチで「分からないと思います!」と答える。
いやそれ感想だろと。じゃあ何で手を挙げるのよと。

そういうおちゃらけた男子生徒は授業の進行には邪なんだけど、でも不思議とわたしとイモは妙にウマがあった。
立場も年齢も違うけど、まるで年の離れた仲良し兄弟みたいな関係だった。

イモとわたしで『ゴリーモ』っていうデュオを組み、文化祭で一緒に歌ったのは良い思い出だ。イモはすごく歌がヘタだったけど。

そのイモも今は立派に成人して、ついこないだイモから結婚式の招待状が届いた。そりゃわたしも年を取るわけだ。

もちろん行かないけどね。イモの結婚式には。だってウソだもん。10年前にわたしが地方の教師だった事実は一切ない。何なら教員免許も持っていない。数学? 死ぬほど苦手だ。
何がゴリーモだフザケてんのかこの野郎。フザケてんのはわたしだろこの野郎。

2. キャッシュバックババア

昼食用に買ったおにぎりとパンを食べ終わり、午後の仕事に備えてデスクに突っ伏して寝ていた。
体感的には5分くらい経った頃だろうか。

「えせすこさん! えせすこさん!!」

突然誰かがわたしの肩をバンバンと叩いた。

驚いて顔を上げると、生命保険会社の女性が立っていた。今の時代には適さない呼称かもしれないが、いわゆる生保レディだ。わたしの保険を担当してくれている。

生「毎月の保険料が今よりお安くなるプランを作ってきたんだけど。ちょっと見てくんない?」

待って。亜高速でそちらの用件に移行する前に、まずこちらの気持ちに折り合いを付けさせてもらいたい。

いや、ありがたい。お安いプラン変更の提案は非常にありがたい。だが知っての通り今はお昼休みだ。そして見てわかる通りわたしは寝ていた。あなた方のメインの営業時間がお昼休みである事は承知している。だからこの時間に訪ねて来られるのも一向に構わない。

だが繰り返す。わたしは寝ていた。平井堅を凌ぐ勢いで瞳を閉じていたんだ。一般的な社会通念を持ち合わせている人間ならば、寝ている人を自分の都合でわざわざ起こしたりはしない。

そしてもう一つ。なぜ叩く? 突付くだろ普通。寝ている誰かを起こそうとするなら、肩か二の腕のいずれかを人差し指でツンツンと突付くのが世間の相場だ。どうしてそれくらいの気遣いが出来ないんだ。

はっはーん。さてはお前アレだな? 駅の改札を通過した瞬間に立ち止まってバッグに定期券をしまったりするタイプだろ。エスカレーターを降りた瞬間に立ち止まって後続の玉突き事故を誘発したりもするはずだ。要するに自己中心的で他人への気遣いが出来ないタイプ。

生「いい? ちょっとプラン見てもらっていい?」

だからイヤだ。良くない。わたしは眠い。昨日の睡眠時間が1時間30分しか確保できなかったんだ。ゲームに夢中になっていたからだけど。そんな説明を聞いていたら貴重なお昼休みが終わってしまうではないか。

しかし、たとえ眠りを妨げられようともわたしはオールウェイズ紳士だ。決して乱暴な言葉など使わない。心の中では「ババアはよ帰れや」って思っているけれど。
なのでわたしは生保さんに言った。

私「ありがとうございます。家に持ち帰って内容を確認させてもら……」

生「キャッシュバックあるから!!」

私「え?」

生「いまプラン変更してくれるとキャッシュバックあるから!」

私「いやだから、変更するにも内容を確認してみないと……」

生「あ、だからいま私が説明するから!」

私「……」

生「キャッシュバックあるから!」

この野郎。いまお前の説明を聞きたくねえから持ち帰って検討するって言ってんだろ? 何回言わせるんだ俺は眠いんだよ。こうしている間にも時間は刻一刻と過ぎ去り、お昼休みが終わってしまうんだぞ。お前はわたしに午後の仕事を白目むいてこなせと言うつもりか?

だいたいお前はこうしてわたしのところに来るのはいつぶりだ? ちょうど一年前のこれくらいの時期だろ。契約するまでは毎日のように来ていたくせに、契約した途端に一切わたしのところに足を運ばなくなりやがって。釣った魚に餌はあげないタイプ? イケメンホストかお前は。ダメ。そういう人苦手。

そしてその大声は何だ? ノルマ達成が厳しいのか知らないが、お前のそのキャッシュバック連呼は周りの同僚も聴いているんだぞ。それで今わたしが「分かりました。プラン変更します」とでも言おうものなら、「あいつキャッシュバックに釣られてプラン変更しやがったぜ」ってなるんだぞ。そうしたらどうなる? わたしの今後のあだ名だよ。鼻血を出しただけで翌日から『鼻血男爵」の異名を頂戴した過去のあるわたしだぞ。ほぼ間違いなく『キャッシュバック伯爵』に決定だ。男爵から伯爵に位が上がって良かったねってうるさいよ。そこまでいったら公爵を目指そうかじゃないんだよ。公爵だぞ。デュークだよ。デュークえせすこ。悪くない。悪くはないけどあふれ出る更家感が少し残念だ。

1. スーパーの前に自転車が行列する理由

圧倒的な自由度と理不尽な難易度で人気を博したスーパーファミコンのゲームは『ロマンシングサガ』なんだけど、行列を作りたがるのは人のサガ。
行列の先に何があるのかは重要じゃない。もはや行列に並ぶという行為そのものに価値を見出しているからアイツらは。行列の先が汚物にまみれた公衆トイレだろうと、加齢臭を放つくたびれたオヤジの耳の後ろだろうと意に介さない。それが行列。たぶんだけど。

 

行列といえば、義母が事あるごとに「私が並び始めると必ず行列が出来るのよぉ」と言う。何を言い出すかと思えば。ババアが何を思い上がっているのか。一介の老人(おいんちゅ)ごときにそんなミラクルパワーがあるはずがないじゃないか。それが本当なら闇の組織が放っておかないよ。今頃は刺客からの逃避行に身を投じていなければおかしいのに、義母は先週もリビングで芋ようかんを食べていた。痛いほどに平和。従って義母に行列を生成する能力はない。

 

行列といえば先日、駅前にあるスーパーの入り口付近に行列が出来ていた。別に行列なんて珍しくもないんだけど。半年前に唐揚げ屋さんが出来た時も、つい先日オープンしたばかりのパン屋さんにも行列は出来ていたし。

でもその行列は少し様子が違っていて。行列に並んでいる全員が自転車にまたがってた。モンゴルの騎馬軍団かよ。

行列の先頭におじさんがいたから、自転車のタイヤに空気を入れてもらいたい人達の行列かとも思ったけど、何か違うっぽい。
先頭のおじさんが著名な方じゃないかと目を凝らしたけど、普通のオッサンに戻る必要もないくらいに普通のオッサンだったのでこの説は速攻で棄却。

いくら考えても分からなかったから、あのおじさんはインドの聖人サイババで、みんなビブーティ欲しさに自転車で行列しているのだと思うことにした。なぜサイババなのかは自分でも分からない。たぶん考える事に飽きたんだと思う。

違った。全然サイババじゃなかった。
家に帰ってから奥さんに聞いたら、あれは自転車を停める順番待ちをしている行列だって。今年一番の衝撃。まだ半年も過ぎてないけど。わたしは自転車に乗らないから、スーパーに買い物に来る人たちが自転車を停めるために行列で待つ事があるなんて初めて知った。

いつもありがとう。買い物をしてくれている人たち。